11 - 18 - 2008

543 美男と醜女

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 紫式部が「源氏物語」を著したのは1008年のころだという。今年は、その1000年目にあたるというので、日本のマスコミはかまびすしい。
 本紙にも日本の文化人のいろいろなコメントが掲載されて、ブームをあおっている。
 「源氏物語」が世界的な文学作品であることは論を待たない。ここではそれを繰り返さない。
 ところで光源氏は美男の典型だが、これとかかわった女性群は、おしなべて美女ばかりである。
 この長い物語の中に、ただ一人、不器量な女性が登場する。
 私はいささかヘソ曲がりだから、彼女が出てくる「末摘花」(すえつむはな)の帖が好きで、故常陸の宮の一人残された姫君の存在に、いたくあわれをおぼえた。
 一人ひっそりと琴を趣味として暮らしているこの姫君に、源氏はいたく興味をそそられ、夏の夜姫君のいる荒れはてた邸にしのびこみ姫君と結ばれる。姫君の初心でぎこちないのにやや失望するが、それでも責任を感じて何度か逢瀬を重ねる。
 しかし姫君の顔を見たことがない。(平安時代の夜の闇はまさに漆黒であった)
 ある冬の一夜を明かした翌朝、外は雪景色だったので、美しい雪景色を見ようと、源氏の誘いに出て来た姫君の顔を初めて見て源氏は仰天してしまう。
 姫君は胴長で、鼻が長く垂れ下がり、その先が赤い、末摘花(紅花)のようで、それに長い顔をしていた。しかし白色だった。
 源氏はその不器量さと宮家のおちぶれた様子に同情して、一概に見捨てられもせず、世話を続けたが、再び姫君のところに通うことはしなくなる。
 紫式部の筆はいささか酷いが、このような女性も宮廷人の中にはいたのである。まさに人間の世界である。しかし、後日譚がある。「蓬生」(よもぎう)の帖である。
 この不器量な姫君は源氏と関係があった後、源氏から生活の援助も少しはあったが、あれから3年、手もとは不如意で邸も荒れ果て、邸を売れの、調度品を売れというような誘いがあっても姫君はそのような話には一切のらず、化物屋敷のようなところで末摘花は源氏が再び訪ねることを待ちつづける。
 ある日、源氏がこの荒れ果てた邸の前を通り過ぎた時、これは末摘花の屋敷であることに思い当たり、雑草をかき分けて4年ぶりに再会する。
 源氏は末摘花がかたくなまでに自分を信じきり、宮家の姫君のプライドを失わず、おっとりとした上品さを保っている貴族のこころを知り、むしろ感動する。
 源氏はこれまでの薄情のつぐないに、邸の修理をさせ、経済的な援助をするという話である。
 紫式部はここで末摘花の女性の一途さと心情の美しさを描き、醜女(しこめ)に一つの救いを与えている。
 女性の器量、不器量のことは、平安の昔から色ごのみの世界では重大なことだったにちがいない。そんなことを考えながら、源氏物語を今の人生と重ねて読むと興味が尽きない。
(のりもと)

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